JV-ITの開発力を活用し
大規模システムの構築に成功
-
1
15年来のネットのつながりから生まれたビジネスの縁
-
御社の事業内容をお聞かせください
名村代表
(以下、名村)
当社では不動産業界に特化したWebサイトの制作とシステム開発を行っています。最近ではSIerとしての役割が大きくなっており、数千万規模のシステム開発を請け負うこともあります。
-
どのような経緯でサービシンク社を設立しましたか
名村
実はその昔、私は声優をやっていたんです。そのうち生活が苦しくなり、学生時代に仲間とやっていたWeb制作の経験を活かして、不動産のポータルを運営する企業にディレクターとして入社しました。その後、経験が買われ不動産に特化したWebサイト制作会社の役員を務めた後に、起業しました。
不動産業界のノウハウもありましたし、IT化が遅れており、情報の非対称性が課題となっている業界なので、ビジネスチャンスが多いのではと思ったのが、この業界に特化した理由です。
-
JV-IT社のことはご存じでしたか
名村
実は猪瀬社長とは、ネット上含め15年来のつながりがあります。ゆるくつながっていたので、互いに何をやっているのかよく知らなかったんですが、2018年に久しぶりに実際に会って近況を報告し合ったところ、とても近しい仕事をやっていることを知りました。
当社では、慢性的にエンジニアが不足しており、案件が増やせないという課題が常にありました。猪瀬社長がベトナムのエンジニアを使ってオフショア開発を受託していることを知って、協力してもらうことにしました。
-
2
社内の反対を押し切って進めたオフショア開発
-
オフショアについては当初どのような印象をお持ちでしたか
名村
実はかなり前から中国に視察に行ってオフショア事情を調査したり、知り合いの会社にベトナムのエンジニアのことを聞いたりしていたのですが、うまくいく感じがまるでしませんでした。
品質が悪い、意図を全く理解してくれない、最悪の場合逃げられる、といった悪い噂しか聞こえてこないんですよ。
だから、そのことを猪瀬社長にざっくばらんに話しました。すると猪瀬社長がこう言ったんです。「名村さんの話はよく分かる。でもプロジェクトの目的やゴールを共有してもらわないと、どう動けばいいのかメンバーも判断できない。仕様書を渡されただけではかゆいところに手が届くような対応はできないです。」そう言われて、腑に落ちました。
-
実際にオフショアを始めた時、周囲の理解は得られましたか
名村
当時のマネージャーが大反対しましたね。配下のディレクターたちもどうやってコミュニケーションを取ったらいいのか、不安を隠せませんでした。
実際、最初の2か月は社内でかなりフラストレーションがたまっていたと思います。クライアントにとって重要なプロジェクトだったので、失敗できないというプレッシャーもありました。
ただ、4か月過ぎたあたりでディレクターたちと話したところ「意外にスムーズに進むね」という結論になりました。
ベトナムチームは日本の案件をたくさんこなしているだけあって、テレビ会議での情報共有の仕方がとても上手です。
以前、国内の地方の会社に開発を委託したのですが、その時はテレビ会議の時点で失敗でした。何を伝えても返事がなくて、理解しているのかよくわからない、先方が抱えている課題もよく伝わらない、ということでプロジェクト自体もうまくいきませんでした。
そんなこともありテレビ会議でのコミュニケーションはやはり不安でしたが、ベトナムチームとのやり取りでは、何をしてほしいのか、何を判断してほしいのかが簡潔に伝わってきました。
-
ベトナムチームの技術力はどのように評価されますか
名村
ディレクターからは、「今後もベトナムのエンジニアを残してほしい」と言われました。非常に技術力が高く、バグ修正が速いので、すごく助かっています。
-
3
オフショア開発がうまくいくコツとは
-
苦労したことはありますか
名村
うまくいかなかった理由は、ブリッジの役割があるOM(オフショア・マスター)に指示したことが、ベトナムチームにうまく伝わらないということです。
始めてから1年くらいまでこの問題の原因がわかりませんでした。プロジェクトが大詰めになって私が支援で入った時に、やっと気づいたんです。
原因は、社内のスタッフがOMに伝える際の伝え方が悪いことにありました。OMは日本語のできるベトナム人ですが、日本語は抽象的で主語や目的語が省略できる特性を持っています。そのため、「こんな感じ」とあいまいに指示してしまうと、翻訳する際に必ず齟齬が出ます。
-
コミュニケーションの問題はどのような対策が有効でしょうか
名村
当社ではまず、口頭での指示は避け、できるだけドキュメント化しました。ドキュメントを書く際のルールも作りました。ひとつは依頼事項を簡潔な記述の箇条書きにすること、そしてもうひとつは、論理的に説明すること。例えばバグの修正であれば、想定結果と現状結果の差異を示して「原因を教えてください」と明確に記載します。
ることで、記述中に質問がいくつあるのか、どこまでが質問でどこまでが状況報告なのか、などが明確になり、受け取り側の認識齟齬が一気に減りました。
指示書を書く時は「記法を使う」「主語述語を明確にする」「簡潔に論理的に表現する」がポイントです。これさえ守れば後は普通のプロセスでオフショア開発がまわせるというのが今の実感ですね。
-
指示書の書き方は普段のコミュニケーションでも参考にできそうです
名村
本来これはオフショアに限らず、日本人全体の課題です。そしてこの問題がプロジェクトで発生するのは、ディレクターに責任があります。
ディレクターは言葉が武器なのに、明確に指示しないばかりに確認のやり取りが入り、時間の無駄が発生します。「日本語能力がないからディレクター費をもっとください」とクライアントに言えますか?もっと自分の言葉に厳格になるべきです。
-
4
オフショアを推進する企業と消極的な企業の二極化が進む
-
今後はオフショア開発が広がってくるのでしょうか
名村
今後は、オフショア開発をうまく
活用する企業と、あきらめる企業と二極化していくのではないかと思います。
当社はオフショア開発をうまく回せるようになるまで1年かかりました。それでは費用対効果が薄いと判断する企業も出てくるでしょう。
一方で人手不足は深刻ですし、外国人はとても優秀です。このままいくと将来日本のエンジニアは技術力で大きく後れを取るかもしれません。
オフショア開発を成功させるには、コミュニケーションを根本的に見直す必要がありますが、それさえ乗り越えれば、エンジニアはとても優秀で、コストも抑えられます。うまく活用すれば事業を拡張できるでしょう。
ただし規模の小さな開発は、翻訳作業のオーバーヘッドがかかるのでオフショアは向いていません。少なくとも2、3百万円くらいの規模があって、開発期間もある程度確保できれば、オフショアが選択肢のひとつになります。
-
-
今後の展望をお聞かせください
名村
いままでは受託事業のみでしたが、去年から業界に特化したサービスを始めました。この新規事業を数年かけて、会社の売上比率で半分になるまで持っていきたいと考えています。また、ディレクターを育てて、JV-ITさんにも協力してもらい、受託事業を大きく成長させていくことも思い描いています。